青井ノボルです。
1ヵ月ほど前、第1期運用報告書が発表された楽天VT。
実質コストが想定よりも高く、大きな話題となりました。
2017/9/29に設定された楽天・全世界株式インデックス・ファンドです。
米国籍ETFのVTに投資するファンドであり、楽天VTとも呼ばれています。
楽天VTの実質コストについて、多くの人が話題にした結果でしょう。
楽天側から運用報告書にかかる補足説明資料が発表されたのです。
この記事では、運用報告書および補足説明資料も踏まえ、楽天VTの実質コストが高いのかどうかを考えます。
鮮烈なデビューを飾った楽天VT
楽天・全世界株式インデックス・ファンドは、楽天VTと呼ばれています。
米国籍ETFのVTに投資するファンドオブファンズで、全世界株式が対象です。
「投信ブロガーが選ぶ! Fund of the Year 2017」では第1位に輝いています。
設定されて間もない時期から、全世界株式に1本で投資できる点が高い評価を得ていました。
また、2018年1月からスタートしたつみたてNISAの対象ファンドでもあります。
(引用元:楽天・全世界株式インデックス・ファンド|楽天投信投資顧問)
つみたてNISAがスタートしてから、純資産総額が順調に伸びています。
楽天VTは相対的に評価が高く、実際に人気を集めているファンドです。
第1期運用報告書から試算される実質コスト
先月、楽天バンガードシリーズの第1期運用報告書が公表されました。
楽天VTについても、初めての決算を迎えたことになります。
運用報告書には「1万口あたりの費用明細」という項目があります。
信託報酬以外にかかる運用コストが、一覧でまとまっている表です。
こちらの記載内容を確認しながら、実質コストを試算していきます。
第1期目は決算期間に注意
第1期目における特有の問題ですが、決算期間には注意が必要です。
シリーズで決算日を合わせる関係上、設定日から1年未満で決算を締めています。
楽天VTの場合、第1期の決算期間は2017/9/29~2018/7/17です。
だいたい8ヵ月間くらいですが、正確には292日間となります。
日数計算は、下記サイトで確認することができます。
初日を「含む」にチェックを入れるのがポイントです。
1万口当たりの費用明細を確認
楽天VTの運用報告書から、1万口当たりの費用明細を確認します。
一覧表になっているのですが、内容は下図の通りです。
(引用元:楽天VT第1期運用報告書|楽天投信投資顧問)
前述の通り、この費用明細は1年未満の変則決算に基づく数字です。
この数字は1年間の年率ではないことから、年換算する必要があります。
年換算することで、実質コスト(年率)の推定値が求められるのです。
実質コストの年換算方法
年換算の計算方法ですが、人によって様々な考え方があります。
例えば、信託報酬に注目して費用明細と交付目論見書を比較するとします。
費用明細の信託報酬0.098%を、交付目論見書の0.1296%(年率)に補正する。
そのため、年換算のためには0.1296/0.098≒1.3224倍でOKとなります。
以上の前提であれば、0.304%×1.3224=0.402%(年率)が実質コストです。
ところが、費用明細に書かれている信託報酬は簡便法で算出される数値。
そのため残念ながら、正確な数値とは言えないのが実際のところです。
以上のことから、ワタシは下記条件で年換算の計算を行うこととします。
- 交付目論見書の信託報酬年率をそのまま採用
- 費用明細のうち信託報酬以外の項目だけ決算期間で年換算する
→具体的には292で除算したのち365を乗算して算出する - 信託報酬年率に年換算した費用明細(信託報酬除く)年率を加算
具体的に計算します。
信託報酬は、交付目論見書から税込の数字を抜粋します。
信託報酬年率=0.1296%
費用明細のうち信託報酬以外の項目を決算期間で年換算します。
売買委託手数料年率=0.167/292×365=0.20874999…%
有価証券取引税年率=0.000%
その他費用年率=0.039/292×365=0.04874999…%
以上をまとめると、下記の通りとなります。
なお、表示は小数点第3位までとしています。
(前述の前提に基づく計算をしたうえで独自作成)
結果、信託報酬を含めた実質コストは年率0.387%と試算されました。
ただし、楽天VTはFoFのためVT本体の経費年率0.10%を加えます。
VT経費率を加えた、楽天VTの実質コストは年率0.487%と推測します。
楽天VTの実質コストが高いのかどうかを考察
楽天VTの実質コストは、第1期運用報告書により年率0.487%と推測しました。
このコスト水準が高いのか低いのか、感じ方は人それぞれだと思います。
ワタシの場合は、どうしてもeMAXIS Slim シリーズと比べたくなります。
過去のブログ記事から、それぞれの実質コスト推測値を抜粋します。
eMAXIS Slim 国内株式(TOPIX)は、実質コストが年率0.178%と推測。
eMAXIS Slim 先進国株式は、実質コストが年率0.198%と推測。
eMAXIS Slim 新興国株式は、実質コストが年率0.389%と推測。
全世界株式の地域割合を、国内:先進国:新興国=1:8:1と仮定します。
按分すると、eMAXIS Slim 全世界株式(仮)の実質コストは年率0.215%です。
楽天VTは、ファンド1本で全世界株式に投資できるという利便性があります。
とはいえ、実質コストが倍以上となると高いと感じるのが自然でしょう。
第1期目は実質コストが高くなりがち
第1期運用報告書の公表以降、楽天VTの実質コストが大きな話題に。
こうした声を受けてなのか、楽天は補足説明資料を公表するに至りました。
資料に書かれている要点は2つあります。
- 売買委託手数料を協会規則で計算している
→結果的に大きな数字となった - 実際の売買委託手数料は今後も同水準程度を想定
これについては、資料の中にある図表を見ると分かりやすいです。
(引用元:楽天VTの補足説明資料|楽天投信投資顧問)
この図表は、あくまでイメージ図となっています。
協会規則の簡便法で計算すると、第1期と第2期で印象が大きく変わります。
1万口当たりの売買委託手数料(実額年間500万円と仮定)を計算すると下記の通りです。
第1期目:500万円/((0+100億口)/2)×10,000=10円
第2期目:500万円/((100+200億口)/2)×10,000≒3.3円
解約による資金流出が少なく、資金流入ペースが一定と仮定します。
すると、平均受益権口数の数によらず、売買委託手数料はほぼ同額。
協会規則では、平均受益権口数を分母として割算する規則となっている。
平均受益権口数が少ない設定当初の決算では、コスト高に映ってしまう。
補足説明資料を読むと、そのようなメッセージが透けて見えてきます。
協会規則による計算の歪みを除いてみる
協会規則によって、売買委託手数料がコスト高に映ってしまったのは残念です。
そこで、第1期運用報告書で推定した売買委託手数料から歪みを除いてみます。
ここからは、ワタシの勝手な前提で試算を進めていきます。
計算単純化のため、この試算だけ下記の前提とします。
- 第1期運用報告書の期間は10ヵ月間
- 第2期運用報告書の期間は12ヵ月間
- 口数は月10億口増のペースで増加し続ける
- 売買委託手数料は同額で推移する
- 第1期は平均口数が(0+100)/2=50億口→年換算60億口
- 第2期は平均口数が(100+220)/2=160億口
この前提とすると、年率0.209%と推測した売買委託手数料がどう変化するか。
第2期目を試算してみると、0.209*60/160≒年率0.078%となります。
第1期目は歪みが大きく、第2期目が適正水準であると勝手に考えるとします。
そうすると、売買委託手数料は約1/3の水準まで圧縮されることになります。
売買委託手数料を年率0.078%と仮定すると、実質コストは0.257+0.10=年率0.357%です。
この数字は仮定に基づく想像の数字ですが、これを見てどう感じるでしょうか。
繰り返しますが、eMAXIS Slim 全世界株式(仮)の実質コストは年率0.215%と推測されます。
更に言えば、eMAXIS Slim 全世界株式(日本含む)が設定されるという噂もあります。
楽天VTの実質コストをどのように推定して、投資判断をどのように下すのか。
自分なりに計算した推測値も参考にしながら、じっくり考えたいと思います。
(2018/10/15追記)
まさかまさか、この記事を書いた時には想像もしていませんでした。
eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)が設定されるとのことです。

関連記事紹介
バンガードによる4つの基本原則は、個人投資家にとって非常に参考となります。
「投資のコストは最小化する」ということも、基本原則に含まれています。

eMAXIS Slim シリーズを手掛ける三菱UFJ国際投信の第2回ブロガーミーティング。
このなかで、全世界株式ファンドの設定についても代田常務より言及がありました。

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