青井ノボルです。
少し前になりますが、r>gの概念を学ぶために「21世紀の資本」の要約本を読みました。

内容をざっくり言うと、資本収益率rはGDP(所得)成長率gに勝るというお話です。
これは長い歴史の中で存在し続けてる法則で、資本家に富が集中する要因の一つと思われます。
ところで、r>gというのは、著者のピケティが膨大な統計データに基づいて導いた法則です。
マクロではこの法則が成り立つとして、30代サラリーマン兼インデックス投資家の視点で考えたときにも、本当にr>gとなるのでしょうか。
そんな疑問を抱いたので、ワタシにとって身近な話に置き換えてr>gを考察していきます。
r>gという不等式の歴史的事実
30代サラリーマンが実践しているインデックス投資の期待リターンrを確認
30代サラリーマンの過去年収データから年収成長率gを算出
r>gという枠に囚われる必要は無いと思う
年収成長率gを高めることも重要
r>gに縛られずに自分のrとgに向き合いましょう
r>gという不等式の歴史的事実
ピケティの「21世紀の資本」において、一番有名な概念がr>gです。
「資本収益率rは世界経済成長率gよりも常に高い」という不等式が成り立つことを、膨大なデータから導き出したピケティの功績は大きいですよね。
歴史的事実であるr>gを端的に示したグラフが、コチラです。
(引用元:http://piketty.pse.ens.fr/files/capital21c/pdf/G10.9.pdf)
一目瞭然ですが、税引き前の資本収益率rは世界経済成長率gを常に上回っています。
20世紀には差が小さくなりましたが、21世紀に入って再び差が広がっています。
ざっくり言うと、「資本を持つ人にお金が集まり、一般的なサラリーマンにはお金が集まらない」ということ。
資本とは不動産や株式といった資産のことを指していて、rは不労所得の利回りといったところ。
世界経済成長率gは、経済を回している労働者の給与所得・事業所得の成長率ともいえる概念です。
r>gは「資本を保有するお金持ちはこの先もお金持ちであり続ける可能性が高い」という格差を象徴しているとも言われています。
ピケティはこの差を解消すべく全世界協調による資本への累進課税を提言していますが、現実的には難しいでしょう。
資本を持たない普通のサラリーマンがr>gの格差を嘆いたところで、格差は解消されません。
もしr>gが事実なら、資本収益率rを取り込むことに注力するのが賢い選択だと考えます。
ただ、ピケティが言っているr>gは、膨大な統計データに基づいて導かれた結論です。
日本に生まれ育ち、サラリーマンとして収入を得て、全世界株式へのインデックス投資を実践しているワタシにも当てはまるのでしょうか。
実際に行っているインデックス投資の期待リターンをrとして、またサラリーマン年収の成長率をgとすることで、検証していきましょう。
30代サラリーマンが実践しているインデックス投資の期待リターンrを確認
まずはじめに、インデックス投資の期待リターンrを考えていきます。
ワタシは5人家族の30代サラリーマン、投資は人生のオマケ的な存在です。
相場を読むことはできないし、値上がりする銘柄を選別する眼もありません。
絶望的なまでに投資素人なので、金融のプロには勝てないものと信じています。
市場平均にも勝てないですし、勝ち続けるアクティブファンドを選定する眼も無いです。
そのため、インデックス投資で市場平均リターンを受け入れるのが賢い選択だと考えます。
更に言えば、投資素人であるワタシによる投資判断は、感情に左右されるリスクが大きいです。
感情に流れないためにも、判断の余地を極力無くしておくことが、結果的にプラスとなります。
そのためにも、全世界株式のありのままの姿、時価総額比率で投資することにしています。
リスク資産は時価総額比率の世界株式で、国内1:先進国8:新興国1の比率にしています。
そして投資資産のうち、リスク資産を7割、無リスク資産を3割というのが目標です。
(参考:長期投資予想/アセットアロケーション分析|ファンドの海)
「ファンドの海」のツールを使って確認すると、リスク(σ)が約13%となります。
2年連続で2σの下落に見舞われても半分以上残るので、この比率を採用しています。
1点だけ、「日本債券」は期待リターン0.1%・リスクゼロ・相関無しに設定変更しています。
まだ債券投資をする予定は無いので、「日本債券」は「現金」として置き換えています。
というわけで、ワタシが実践しているインデックス投資の期待リターンrは3.81%です。
30代サラリーマンの過去年収データから年収成長率gを算出
次に、30代のサラリーマンであるワタシの年収データから、年収の成長率gを導きます。
過去の給与明細・源泉徴収票等をもとに、ワタシの年収推移を表にまとめました。
2007年4月に社会人になったので、2007年のデータは9ヵ月分しかありませんでした。
今回は参考値として、9ヵ月分のデータを12ヵ月換算した数字を記載しています。
2010年のデータは、前職時代の給与データを紛失してしまい、手元にありません。
なお、年収額は丸めた数字ですが、成長率(増加率)は詳細データで計算しています。
表の中に記載している成長率は、前年年収と比較した単年の成長率です。
こうして一覧表にまとめてみると、数字の推移に特徴があって面白いですね。
①2007年~2009年は年収にほぼ変化なし。2009年はむしろ減少している。
理由は、昇給額が月収5,000円程度だったので、基本給の増加が僅かだったためです。
また、2008年は残業手当が多かったため、金額が相対的に大きくなっています。
手取り金額では、2009年に住民税がフルに引かれ始めて年収成長率がマイナスです。
②転職した2011年から年収成長率が安定的に推移している。
こうして年収推移を改めてみると、転職したのは正解だったようです。
飛躍的な年収アップは見込ませんが、毎年着実に年収が成長しています。
③転職後では唯一2017年のときだけ年収成長率が伸び悩んだ。
2016年の途中まで、年度末に繁忙期となる部署にいたことが要因だと思います。
昇給額は月収10,000円程度ありましたが、前年の残業代による影響が大きいです。
とはいえ、残業が多いときでも月30時間前後なので、大した額ではありません。
ところで、ワタシの場合の年収成長率gはどのように計算すべきでしょうか。
年収成長率gの算出には、Keisanで公開されている複利計算(利率)を利用しました。
2007年は年換算した参考値なので、設定期間の始点は2008年とします。
設定期間の終点は2017年、つまり9年間の年収成長率gを計算します。
ちなみに、ここでいう年収成長率は年平均成長率(複利成長率)です。
(参考:計算式)
2008年の年収をx、2017年の年収をyとして、
年収成長率g=(y/x)^(1/(2017-2008))-1。
※成長率の計算には年収の実額を使用しています
すると、額面年収で計算した年収の(年平均)成長率gは5.46%という結果となりました。
さきほど記載した通り、ワタシのインデックス投資期待リターンrは3.81%でした。
計算した年収成長率gと比較すると、r<gという不等式となります。
ピケティが歴史上の事実として明らかにしたr>gとは全く逆の結果です。
ではなぜ、真逆の結果となってしまったのでしょうか。
r>gという枠に囚われる必要は無いと思う
r>gの不等式が、ワタシの場合にはr<gとなった理由、これは簡単なハナシです。
ピケティが発見したr>gは、世界各国の膨大な統計データから導いた結論です。
当然と言えば当然ですが、世界全体としての傾向を示しているに過ぎません。
一方で、今回はワタシが自分事として投資期待リターンrおよび年収成長率gを考えました。
投資期待リターンrと年収成長率gは人それぞれなので、結論が違うのは当たり前ですよね。
数ある投資法のなかでワタシが選択しているのは、全世界株式へのインデックス投資です。
また、全世界株式は時価総額比率として、リスク資産と無リスク資産は7:3としています。
リスク許容度は人によって異なるので、上記の投資法が誰にとっても正しいとは限りません。
例えば、全世界株式(3地域均等型)へ100%投資すると、投資期待リターンrはこうなります。
(参考:長期投資予想/アセットアロケーション分析|ファンドの海)
ワタシのポートフォリオと比べると、投資期待リターンrは2.45ポイント増加しています。
また、リスクσが6.68ポイント増加しています。2σの下落を2年連続で半分以下になる計算です。
リスク許容度が高ければ、上記のように投資期待リターンrを6%以上と考えるのもアリです。
また、年収の成長率gについても、同じようなことが言えます。
ワタシの年収で考えても、期間の取り方によって成長率gは変化します。
2008年~2011年の3年間で区切れば、額面年収の成長率gは1.46%となり低水準です。
2011年~2017年の6年間で区切ると、額面年収の成長率gは7.52%まで一気に上がります。
ワタシは2011年に転職をしていますが、職場によっても年収成長率gは大きく変わります。
残業時間の変動や年によって昇給の緩急が大きい場合も、期間の区切り方でgは変化します。
サラリーマンであっても職場や働き方は選択できるので、年収成長率gは与えられるものではなく自らの意志で取りに行くものだと思います。
当然ですがサラリーマンに固執する必要もなくて、職業選択のリスク許容度が高ければ、独立や起業という選択もアリです。
あるいは、サラリーマンを継続しながら副収入を得るというのも一つの考え方ですよね。
あくまで自分事として考えた場合、投資期待リターンrと年収成長率gは、他人が決めるものではなく、自分で選択できるものです。
そのため、ピケティが膨大なデータから導き出したr>gという枠に囚われる必要は無いと考えます。
年収成長率gを高めることも重要です
rとgを自分事として考える場合には、r>gという固定概念が邪魔になる可能性があります。
例えば「世の中はr>gだから資本家にならないとダメ。サラリーマンの年収は成長しないし、投資に精を出した方がいい。」とは言い切れませんよね。
特に昇給や転職のチャンスに恵まれている若手サラリーマンは、投資に精を出すよりも、年収アップに労力を割いた方が、お金が増えるかもしれません。
もちろん、r>gであるか否かに関わらず、投資によって期待リターンrの獲得を目指すのは大いに結構だと思います。
ただし、投資が全てではないことを自覚するとともに、年収成長率gの最大化にも力を入れるのが賢明な判断ではないでしょうか。
サラリーマンにおススメとされる長期積立分散投資であれば、短期間で大きなリターンを得る可能性は低いです。
一方で、長期投資は期待リターンの平均回帰性に期待できるので、積立を続けることにこそ価値があります。
年収成長率gが大きければ積立投資の入金額を増やせるので、投資にもプラス効果があると言えるでしょう。
特に若手サラリーマンであれば、投資のスタート期には投資元本を大きくすることに注力する、つまり年収増加率gの引き上げに労力を割いたほうが、結果的に投資リターンの最大化に繋がる可能性が高そうです。
r>gに縛られずに自分のrとgに向き合いましょう
ワタシは職業選択のリスク許容度が低いので、これからもサラリーマンを続けるコトになると思います。
サラリーマン生活のなかで、どうやって仕事を楽しめるか、また年収成長率gを高めるコトができるか。
永遠の課題ではありますが、生活の基盤となる重要な収入源なので、しっかりと向き合いたいです。
そして、全世界株式へのインデックス投資による期待リターンrを取り込むコトも忘れません。
いまのところr<gですが、順調に年収が上がっていったとしても、サラリーマンの年収には限界があると考えています。
徐々に増やすのは一緒ですが、インデックス投資の投資元本は数千万円まで積み上げることも可能です。
ベースとなる投資元本が大きくなれば、投資リターンが生み出すお金も比例して大きくなる。素晴らしいですね!
更に言えば、若手サラリーマンが「投資に精を出す」必要は無いと書きましたが、手間の掛からないインデックス投資であれば、むしろ有力な選択肢となり得ます。
年収成長率gの最大化に労力を割きつつも、最低限の労力で投資リターンrを同時並行で狙う、という戦略は時間効率が良さそうです。
ピケティが膨大なデータから導き出したr>gの不等式は、とても参考になる概念だと思います。
ただし、自分事としてrとgに向き合うとき、この概念が当てはまるとは限らないというコトです。
投資においては、リスク許容度に応じた期待リターンrをざっくり把握しておくと良いでしょう。
年収の成長率gについても、過去の推移を振ることで、何を目指すべきか考える契機となります。
皆さんも「世の中はr>gだから」という固定観念に縛られることなく、個人投資家にとって身近なrとgについて、じっくり考えてみてはいかがでしょうか。
あとがき
実は、将来の投資期待リターンrと過去の年収成長率gを同列で比較するのは、ちょっと無理があったのではと思っています。
ただ、インデックス投資は期待リターン・リスクにあわせて資産配分をしているので、期待リターンこそがワタシにとってのrだと判断しました。
年収の成長率ですが、将来は想像するしかありませんが、過去データであれば計算が容易なので、実績としての年収成長率をgとしました。
ちなみに、ワタシのポートフォリオにおける過去20年の平均リターンは4.0%です(参考:myINDEX 資産配分ツール)。
今回の記事で書いている投資期待リターンrの3.81%と大差がないため、結論は大きく変わらないと考えます。
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